2019 髙橋 一幸さん 新学習指導要領を生かした授業設計●講演:「新学習指導要領を生かした授業設計の視点と評価のすすめ方-三つの柱となる資質・能力の育成と主体的・対話的で深い学びを実現するために」髙橋 一幸さん(神奈川大学外国語学部英語英文学科教授) 1. はじめに 概要:来年度の小学校を皮切りに、年次を追って中学、高校の新教育課程が実施されます。「三つの柱」や「新三観点」など、次期指導要領のkey numberは「3」。そのルーツを探れば指導要領の理念がより明確になり、教育者として考えるべき課題も見えてきます。活動など具体的な授業アイデアの紹介に終わる研修も少なくありませんが、モノ真似から新たな創造は生まれません。小と高を橋渡す「扇の要」としての中学英語の役割と教育課程上の過重負担、「資質・能力の三つの柱」と「主体的・対話的で深い学び」を実現する授業設計の視点、また、互いにoverlapする「新三観点」に基づく評価では、何をどのように評価すればよいのかなど、今後現場で混乱を生むであろう問題を抽出し、皆さんと共に考えたいと思います。 2. グローバル化に対応した英語教育改革の中で中学英語が担う役割 実施前の状況 ①小、高学年での必修化(領域)②高校での「英語は英語で!」 ※9教科中で最高授業時数の中学英語は注目されず 次期教育課程―実施前の現在の状況 大学入試改革(4技能入試、外部試験の活用)②小学校英語の「早期化」と高学年での「教科化」」 「中学コケレバ、小も高も皆コケる!」-「扇の要」としての中学英語の重要な役割 中学校授業改善のポイント 小英語教育の学習内容を踏まえた中学英語入門期指導による円滑な[小→中]の接続 「ごっこ遊び」から脱した中学生の学習意欲を高める「創造的・統合的・総合的」言語活動の実践 教科書本文を理解から「発信・表現活動」へと高め、高校へと橋渡す授業展開(CBLT, CLIL) 3. 中学英語in Crisis! (1) 「小・中・高を通じて一貫した学習到達目標を設定することにより、英語によるコミュニケーション能力を確実に養う」文科省2013 (2) 「指導要領解説」文科省2017 ・小学校で学んだ6~700語彙つづり字への習熟は保証しない。 文構造のフォローアップは中学校の責任! ・中学語彙数は1600~1800語に増加。 高校から降ろされた現在完了進行形や仮定法など、新たに指導すべき文法事項・文構造の再過密化 週4変わらずに中学への常識外れの過重負担。挟み撃ちで 小学校で ・I want to go to , I want to be a vet. ともに不定詞として教えるわけではない ・動名詞 過去形なども同じ。 went, saw, ate, enjoyed だけ出て、応用はきかない (3) 多くの中学教師が初めて教える文法事項 現在完了と現在完了進行形 John has played tennis for 30 years. 状態動詞 John has been playing tennis for 4 hours. 動作動詞 For 900 years, the castle has stood on the hill. He has been standing on the corner all day. 教科書を分厚くすれば済む問題ではない。 4. 「資質・能力の三つの柱」のとらえ方 key numberは「3」 (1) OECDの「キーコンピテンシー」 PISA学力調査の概念枠組みの基本となっているヨーロッパの学校教育の基本的な教育概念。元々は企業で採用に当たり、会社への貢献ばかりでなく、本人も幸せに生活できるという視点から求められる資質をCompetencyと名付けた。 ・Using Tools Interactively言語や知識情報IT機器などを相互作用的に使いこなす能力 ・Interacting in Heterogeneous Groups 異質な他者と良好な関係を築きながら協働し、友好的・建設的に問題を解決する能力 ・Acting Autonomously 目標や見通しをもって自律的に行動できる能力 →健全な自己イメージを持ち、社会や事故の将来を展望し自己実現を図る力 ●ヨーロッパがなぜ重要視しているか ―二度と戦争を起こさないため EUの出発点がそう (2)「資質・能力の三つの柱」(グローバル時代の日本国民の育成) 何を知っているかだけではなく、それを使って何ができるのか?(生きて働く「知識・技能」の習得) 知っていること、できることを、何のために、どう使うのか?(未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力) どのように社会・世界とかかわり、よりよい人生を送るか?(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力、人間性等」の涵養 →併せてとらえなおして、解釈すると↓ 5. 新指導要領の理念を踏まえた中・高の授業改善の視点 三つの柱と三つの学び Active Learning 資質・能力の三つの柱 主体的な学び 対話的な学び 深い学び 知識及び技能 ・英語で進める授業(TETE) ・「気づき」を促す口頭導入 ・教科書本文の理解 ・T-S,S-Sのやり取りを通したinteractiveな授業展開 ・Teacher talk:自己を語る教師 ・生徒による気づきの「言語化」 ・教材研究に基づく教科書題材の深化 ・批判的な読み (Critical reading) 思考力・判断力・表現力 ・本文との対話~解釈と意見の構築 ・自らの体験や考えを伝えあう総合的・統合的・創造的な言語活動 ・本文を生徒の身近に引き寄せる導入・展開 ・ペアやグループでの協働学習 ・意欲を高める「発表」の場の提供 ・思考を促す教師の発問とfeedback ・各種モードでの補足資料の提供による言語活動の高度化(伝達内容の価値) 学びに向かう力 人間性 ・(中長期~短期)目標の設定とふり返り ・自学帳のすすめ、ポートフォリオ活用 ・学び方を学ぶ(自律的学習者の育成) ・(学び方や学ぶことの意義に関する)仲間や教師との対話の場の設定 ・学び、認め、伸ばし合う相互評価 ・外国語(英語)を学ぶ意義を考える ・豊かなことば、言語への関心 ・異文化の理解尊重・平和・人権・共生 評価の進め方 従来の4観点 コミュニケーションへの関心・意欲・態度(情意面での取り組みの姿勢) 表現の能力 ③理解の能力(技能)④ 言語文化に対する知識理解 ↓ 次期教育課程における評価の新観点 1知識・技能 さらに言語活動等を通じて、その知識を実際のコミュニケーションにおいて活用できる技能を持っているかを評価する 2思考・判断・表現の評価 さらに自分自身の考えを持つことができているか 3仲間と協力したり、自ら計画を立てたりして積極的かつ主体的に学習に取り組む態度(学習プロセス)を評価する 6. 質疑応答 なし 参加者の感想 • 「新学習指導要領」について改めて整理することができた。 • 新学習指導要領については大学院の授業でも学んでいますが、教職大学院なので、具体的に教科に落とし込めていないところがありました。お話を伺って、かなりすっきり落とし込むことができたと思います。評価については、まだ明確な指針が出ていないので、とても不安があります。今日のお話は、校内の先生方とも共有していきたいと思いました。マトリクスはとても難しかったですが、これこそ、多くの先生方と共有しながら考えていきたいことだと思います。 • 理論と実践を結びつけて考える良い機会になりました。 • 3観点について理解が深まり、その具体的な授業設計なども学べてとても良かった。 • 新学習指導要領に向けて、たいへん勉強になりました。 • 本日はありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。 • 高橋先生ご所有PCのデスクトップ壁紙がイメージ通りでとても印象深かったです!忙しさにかまけて見渡すことができない小中高と新指導要領について概要がつかめました。英語を直接運用する力にシフトすることを文科省はねらいにしていると思いますが、今回の新指導要領でも語彙、文法事項については明確になっているものの、運用能力の指導方法については話すことと聴くことを先に行うのか、読むことが先なのか(小学校ではある程度ガイドライン(P.4)がある一方)中高は現状のままだと思いました。「指導」の中にダイアローグ練習の手順を1つ示すだけでも、小中高の連携はしやすくなると思います。文構造・文法事項中心で書かれている現状を打破する必要があると思いました。キーコンピテンシーをもっと指導におろせると良いと思いました。そもそもなんで文科省は小・中・高と分断しているのかがよくわからなくなってきました。学年や段階を超えた活動が文科省で」検討されていないのが不思議です。 • 高橋先生のお話はいつも刺激的で有益なものと感じています。今日も熱のこもった、今後の英語教育の方向性を聞かせていただきました。「教師の行うことは、評価データを出すことではない」まったく同感です。有難うございました。 • これから始めていく授業、評価の在り方を基本から考える事で、今までよりも深く考える事ができました。OECDのキーコンピテンシーから、3つの柱が出来ていることが分かり、今彼の育てていく資質、能力をより深く考えていきたいと思います。私は高橋先生のゼミを卒業した横浜市(?)の先生に中学時代おそわっていました。音声指導のリエゾンや脱落についての指導もあって、リスニングが得意になったのではないかと、今日改めて思いました。私もそのような教師になれるよう、今後精進していきたいと思います。本日は有難うございました。 • 三つの柱と主体的、対話的で深い学びのマトリスクを考える部分は、たくさんハッとさせられる場面がありました。よく聞いてきたフレーズで重要なものなのに、具体的な指導のレベルにまでおとしこんで考えてこなかったことに関して反省しきりです。とても良い機会を頂きました。有難うございました。 • 学習指導要領のお話は、今まで沢山聞いてきたつもりでしたが、本日高橋先生のお話をもう一度聞くことにより、改めて深く学びなおすことができました特に3観点から見た評価基準を高橋先生のお話で、一番タメになりました。今後変化していくなかで、今日のお話を基に授業展開をしていこうと思います。本日は貴重なお時間を頂き有難うございました。 • 新指導要領を資質、能力の三つの柱とActive learningの3つの学びを掛け合わせることで求められる授業の視点を新たに得ることができた。 |